LA TABLE DE YAMASAKI

「伝統の伝道師」


路地裏が醸し出す雰囲気を最大限に引き出しているかのような佇まいで、
伝統的で王道のフランス料理店を営む気概を探りました。

オーナーシェフの山崎洋介さん

フランス料理との出会い

特にやりたいことも見つからないまま、大学受験に挑むも自分が思うような結果が得られず、
将来について悩んでいた。その時たまたま調理学校の体験入学に行く機会があり、
当時のテレビ番組「料理の鉄人」や「王様のレストラン」の影響もあって、すぐに入学することに決める。
二年制の調理専門学校に入学して、一年目は総合的な料理を学び、二年目に専門を何するか選ぶ時に、消去法でなんとなくかっこいいフランス料理を選択した。

カウンター席はまさにライブ劇場

心の下積み

専門学校卒業後はホテルの宴会部門に就職。
時代的な背景もあり、当時は体罰のある教育がまかり通っていて、毎日ボコボコだったと振り返る。
そんな状態だったので、記憶が抜け落ちてしまうくらい鬱だった。
何度か逃げようとしたけど引き戻されるほど、今では考えられないくらい厳しい業界でもあった。
ホテルのウェディングも絶頂期で、2,000人前の料理などをひたすら作業としてこなす毎日。
辞めるまでに三年を費やしてしまったけど、学べたものは調理技術というより、強靭なメンタルと折れない心だった。
ホテルを辞められたはいいけど、行くあてもなく過ごしていると、どこからともなく一緒にお店をしないかという勧誘がやってきた。経験がほとんどないまま出資されたカレー屋さんを始めて半年でダメにしてしまったりと、辞めてからの1年は暗黒時代だったと自身で語る。

伝統を継承する

今に至る原動力

このままではいけないと武庫之荘のレストランで真面目に働くことに。
その後、レストランの経営が厳しくなり、そのシェフの後輩が枚方で新しく始めるイタリアン兼フレンチのようなレストランに転職する。
その時のシェフとの出会いで、今後の考え方や生き方に大きく影響を受けた。そのシェフが数年後に若くして他界してしまったことで、恩返しができない心残りからなのか、今に繋がるモチベーションにもなっている。シェフに「正しい道から外れないように」と言われているようで。
そのきっかけもあって次第にフランス料理を極めたいと感じるようになり、フランスで修行することを考え始める。

身体で覚える料理

フランスで学んだこと

3年の滞在を目標に語学の勉強もそこそこにゼロからのスタートを切る。とりあえずやってみるという精神は、ホテル時代のメンタルが活きてるのかもしれない。
星付きのレストランやビストロから、脳みそなどの珍しい臓物系を取り扱うお店まで五店舗を勉強のために渡り歩く。
言葉がわからず、何か言われても弁解ができないことで、常に緊張感があったので、とにかく料理に集中できる環境だった。
調理の技術が学べたのはもちろん、本場の味が確認できたことや自分でお店をした時、お客様に料理を説明する際、知見を説明できる説得力が増したのは大きかった。
フランスでは十分な技術も身についた。
独立をする前に、どこそこの料理長という肩書きとしての意味合いの「箔」がまだ足りないと思っていたので、予定より少し早く帰国することを決める。

最後の準備

 

帰国後は大阪本町に新しくオープンするホテルのレストランへ。
総料理長がフランス人というのが決め手で、2年目には料理長という箔が付くものの、管理や人事に関する仕事が増えて現場から離れていってしまってることに違和感を感じ始める。
あと少し何かが足りない、勉強として東京を見ておきたい気持ちもあって、仕上げの意味も込めて東京「俺のフレンチ」へ行くことに。
当時熱狂的なブームであった俺のフレンチは、高級料理をスタンディングで安く提供して早く回転させるという新しいビジネスモデル。
16時から始まる営業はオーダーが途切れることなく席が7回転する激務であるにもかかわらず、料理長という役職のまま現場で料理をガツガツ作れることが楽しかった。
在籍中カルビーのポテトチップスのコラボ商品(ウニとカラスミ味)を手がけ、自分の顔写真がコンビニに並んでいた様子がいい思い出だと照れながら話す。
独立は関西で考えていたので、勤めながら物件を探そうと、俺のフレンチ心斎橋店に転勤することに。
優先すべき条件として人口の多い街で人の流れや賑わいがある場所がよかったので、はじめは京都を考えたがイメージがわかず、大阪も特定の場所を絞れなさすぎて、生まれ育ったのが阪神間ということも加味して神戸は三宮の路地裏の居抜き物件に決める。
35歳での独立目標が伸びてしまい次は40歳までに達成できなければ、もうずっと独立できないと自分の中で線引きしていたので、あと二ヶ月で40歳というタイミングで叶ったことでほっと胸をなでおろす。

クラシックな料理への敬意

好きなものを好きなだけ

多くの人が料理に自分のカラーを出そうとしたり、トレンドに影響を受けたりしてしまいがち。
そもそもあまり料理にアレンジを加えるのは得意でないと言うが、フランス料理の伝統を忠実にしたいし、古典を作るのが好きだし、作る人も少なく一周まわって新鮮だと語る。
クラシックな料理はお店の特徴にもなっている。
お店のスタイルは、コース料理もあるけれどアラカルトがメインで、ちょこっとした盛り付けよりもしっかり食べれる量の一皿を提供している。
好きなものを好きなだけ、着飾ることなく肩肘張らずに食べて欲しいという想いは、クラシックな料理と本質的に通じてるかもしれない。

得意の煮込み料理

描く未来

業態はこだわらないけど、自分の目が届く範囲の3店舗くらいは運営したいと思っている。
その上で人材の部分においてまだまだ満足してないことが多く、働き方も変わったことで、飲食業界のシステムに厳しさを感じるけど、料理に集中できる環境を整えるためにも自分の想いに共鳴してくれる人が現れることを願っている。

路地裏のトリップ感

編集後記

 

シンプルには勇気がいる。見方を変えれば何も特徴がないから。
でもクラシックを貫いてることを特徴と認識できるほど極めていることが素晴らしい。
よく料理人は家で料理をしないと言うけど、家でも普通に作るというから尊敬します。
SNSを見ていても、楽しく料理をしているのが、とても伝わってきます。
作るのが好きな料理は煮込み料理。
食べるのが好きな料理はカレー。
人生すべての土台にクラシックの軸がぶれずにあるという印象を受けました。
あと今の奥さんと交際してる時、一緒にフランスで過ごす時期が長かったというから、
フランスの街でデートができるってとても素敵だなあと羨ましく思いました。

( 写真 = 山崎 洋介   文 = 大野 宗達 ) 


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