MONTO TABLE

「いいものと人をつなぎ集める」

 

料理といい、空間といい、どこか独特の気配を感じます。
その唯一無二の研ぎ澄まされたセンスはどこからきているのか。
また、私たちは食を通して何を伝えることができるのか。
とても興味深いお話が聞けました。

店主は川浪典子さん

 

 

ウーバレゴーデンというお店

もともと企画会社に勤めていた川浪さん。
2004年、酒造メーカーから空き地の有効利用の提案をする機会があり、川浪さんの考えた”生産者の顔が見える飲食店を作りたい”という企画が通った。
担当者から、企画した人に運営にも関わってほしいとの話があり、運営委託を引き受けることになった。
飲食店の運営なんて未経験だったから、とにかく必死に奔走した。
スタッフを集めるために昔一緒に働いていた飲食関係のアルバイトの知人をたどったり、シェフ探しは最後の最後にやっと決まったというほど、わからないことだらけで何度も追いかけられる夢を見ていたと当時を振り返る。
なんとか間に合い無事に完成したお店は「over garden」(ウーバレゴーデン、庭の向こう側にというスウェーデン語)の名前が示すように、緑豊かな庭を中心として木やガラスやレンガを使い、自然をテーマとした空間が出来上がった。

広がりのある空間(ウーバレゴーデン)

 

 

引き寄せられた運命

 

オープン後3ヶ月はお店に立ち、その後は事務所に戻りお店のディレクションや企画の仕事をする予定にしていたが、飲食やサービスの仕事はお店というより個人にお客様がつく場合が多い。
お店にとって川浪さんの存在は大きい。
事務所の判断でそのままお店に残ることになった。
とはいえ、現場で食と関わり人と接する仕事が日に日に楽しくなっていった。

当初のコンセプト通り、自然のものを使い生産者の顔が見えるような食材を使った料理を提供するレストラン。
初めはシェフやスタッフとの食への意識の違いを感じていたが、毎日農家さんから届く無農薬野菜を食べていたらスーパーの野菜と比べた時に「美味しさが全然違う!」と言ってもらえ、3年目くらいからみんなが同じ方向を見るようになった。
妹が料理スタッフとして加わり、現MONTO TABLEのスタッフもこの時からのメンバーだ。
川浪さんは、サービスやマネージャーとして先頭に立ってお店に携わり、様々なイベントやウェディングなどの場所としての認知を高め熱烈なファンを増やしていった。
自らが立ち上げた企画に自らがどっぷりと関わることで、自然と寄り添うことの大切さにより気づくようになってきた。
思えば母親が作る料理も無添加を意識した食生活で育ててくれたから、影響が大きかったのではないかと思い出す。
ウーバレゴーデンでの学びは、その後の活動の指針を定める上で、とても貴重な体験になった。

洗練されたお料理

 

 

失くして気づけること

 

お店の人気は順調だったがオープンしてから10年、オーナーから打ち切りの通達を受けた。
ファンからの悲しむ声が多い中、閉店を余儀なくされた。
10年という長い時間をかけて想いを共有したスタッフたちとは解散、川浪さんはその間も前述の企画会社の一員であったので戻ることに。
その時は仲間ともう一度集まって何かやろうという約束を特にはしていなかった。
必死に駆け抜けた10年間だったから、閉店後は燃え尽きたのか、みんなが開放的で自由になれている気がした。
会社に戻り以前のように企画の仕事をこなしていく。
ウーバレゴーデンの時は、同じ環境で同じ仲間と自然に触れていたので、ナチュラルな食事が当たり前になっていたけれど、それがない生活に戻ってみると周りの人がコンビニやインスタントで食を満たす場面をよく目にした。
今までやってきたこと、もっと食について伝えられることがあるのではないだろうか。
違う景色を見たことで、より食の大切さに気づけるようになった。

発想力豊かなデリの数々

 

 

よろこびをつなげる

 

みんなの気づいていない、いいものをもっと伝えたい。
企画の仕事を進めていく中でも、クライアントの意向とはいえ自らの信念を曲げるようなことはしたくない。
行政の減塩プロジェクトに関わった際には、塩の量を減らすというより、塩の質を上げることが大切なのではと感じ、そのニュアンスを広く伝えたいと思った。
キャラクターを作り歌や紙芝居を通して、できる限り今までに培った考えをたくさんの人に知ってほしかった。
その意識は服作りにも及ぶことになる。

服も食と同じように生産者が見えづらい現状になっている。
もっと人が見える循環の中で流通させた方が日々の豊かさにつながるのではないか。
様々な企画をしていく傍ら、共感してくれる知人と共に 「ツキトタネ」というアパレルブランドを立ち上げた。
オーガニックコットンやリネンなどの天然素材を使用し、スリランカの女性たちにアーユルヴェーダの植物で染め、縫製をして服を作ってもらっている。
スリランカに行って指導することもあり、地方でも展示会をしたり、着々とブランドづくりを今でもお店と同時進行中で進めている。
どの仕事も根底に流れる考えは、人と人が見え、よろこびを感じられる環境を整えているということ。

服を通して伝えたいこと

 

 

発信する場所

 

様々な活動をしていく中で、やっぱり食に関わることが好きだと再認識するようになった。
もっと食の楽しみを知ってほしい、食の選択肢を狭くしたくない。
自分のお店を起点として自由にそれらを発信していきたいと思うようになってきた。
ウーバレゴーデンの時のような環境でできたらと憧れはあるけど、とりあえず妹と二人で小さく始めてみよう。
繁華街でもなく、日々の身体をつくる日常食からも離れたくない。
特に土地へのこだわりがあったわけではないが、ご縁があって六甲という場所に落ち着いた。

店名のいきさつは以前から沸々と感じていたこと。
それはウーバレゴーデンで兵庫県丹波篠山で畑にも携わっていた際に、自然災害や獣害に触れる機会があったのがきっかけ。
そもそも自分たちの食の起点は山にあるのではないか。
山が豊かになれば川も海も豊かになる。
山川海の恩恵を受けて暮らす私たちも豊かになる。
すべてが循環でつながっていることで、自然の象徴としての山は、食とも密接に関わっている。
山と人が集うという意味合いでの食卓をつなげることを使命としていこう。
そうして店名を ”MONTO = 山(エスペラント語)” と ”TABLE = 食卓” で、MONTO TABLEと名付けた。

日常に色を足すアイテム
online shop
https://montotable.thebase.in/

 

  

お店があってできること

 

もともとお店の中で食べる食事だけではなく、日常の食事を彩るための役割を担えたらと思っていたので、自家製のドレッシングや調味料には力を入れた。
お家で手軽に使えて安心な食事を整えてもらえるようなきっかけづくりをしていきたい。
次第にお店は忙しくなり二人で回すことに限界がきていたので、理念をあらかじめ共有できているウーバレゴーデンの時のスタッフを加え三人体制で現在は営業している。
コロナによる影響で最初に思い描いてた世界とは大きく変わるようになったけれど、お弁当やデリのテイクアウトなど、今後もできることはいろいろ挑戦していく。
扱う食材はできる限り生産者の顔が見えるものや、自然に寄り添い育てられたもの。
時間を作り生産者のもとへ足を運び、直接会うことの温度感や価値を大切にしたい。
自分の作った空間で、自分たちの作ったものを売るのも楽しいし、生産者が作ったものを売るのも楽しい。
美味しい食を伝えられるのも、美味しい関係を伝えられるのもお店があってこそ。

やりとりの中で生まれる感情

 

 

関わりたくなる衝動

 

お店もやって、アパレルもやって忙しいにもかかわらず、知人からの依頼がきたら企画をしていた頃の血が騒ぐ。無農薬和綿のプロジェクト「mani e  cotone」の商品開発にも携わり、第一弾のプロジェクトとして和綿布団を展開。布団も言ってみれば現代社会における大量生産・大量消費のいち商品。
だれしも睡眠には多くの時間を費やしている。
どうすればもっと布団を大切に扱ってもらえるのか。
無農薬で育てられた和綿から想起される日本の里山の風景、そのふかふかの布団で眠る豊かさをどう伝えればいいのか。
日本の粗大ゴミの1位が布団であることや、世界のわた栽培が抱える問題など、今まで知らなかった社会問題を知ると、自分事として何かできることはないかとついつい考えてしまう。
食も同じように生産者の背景や言葉を知ると伝えたい衝動が生まれてくる。
お店は場所の制限もあるので、全部の美味しいを扱うのは難しいけれど、後にそれぞれのタイミングで思い出してもらえるような”きっかけ”という種を蒔くように、できる範囲でたくさんのことをこれからも伝えていきたい。

信頼できる仲間ともう一度

 

 

編集後記

 

思考プロセスが企画をする人の考え方だ。
料理人でもなく経営者というのでもなく、物事の散らばりをうまく組み合わせているような編集という視点で活動されている印象を受けました。
その中心にあるのが食なのは、川浪さん自身が一番大切にしていることだから。
とにかくいいものを知ると伝えたくなる衝動は、感性や感覚から生まれているのではないでしょうか。
その気持ちは”食”だけでなく”衣”にも関わり、布団も言ってみれば”住”の要素が強いことを考えると、人が生きる上で欠かせないものばかりに興味を持って進んでいます。
自分にできないことは周りの得意な人にお願いする。
そうして人を巻き込みプロジェクトを動かしていく様は、まさに編集能力が成せる技なのでは。
人が助け合い居心地のいいコミュニティが作れたらと、ぼんやり描く理想の未来図。
そこに辿り着くためにも、食べるという手段を使って、自分が大切だと信じる文化を継承していきたい気持ちが生きる原動力になっていると感じました。

( 写真 = 川浪 典子   文 = 大野 宗達 )


レストラン


兵庫県神戸市灘区山田町2-1-1
TEL 078-855-8582
テイクアウト 11:00 – 17:00
ランチ 11:00 – 15:00 ( L.O. )
ディナー 18:00- (予約制)
定休日  月・火・水曜日

https://www.montotable.com/

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