gelateria rintocco

「愛すべきジェラートバカ」

 

小さなジェラート専門店。
有機や自然の素材にこだわり、決して妥協を許さない確固たる信念は揺るぎないもの。
環境がそうさせたのか、生まれ持ったものなのか、そのルーツを紐解いていきます。

店主の山口凜さん

支えてくれたもの

 

お菓子作りに興味があったので高校を卒業して、とりあえずいろんな技術を身につけようと、洋菓子店で修行を始めた。
初めて働いたお店は労働環境が精神的にきつく、毎日死にたいくらいしんどかったと振り返る。
そんな時にジェラートのおもしろさが唯一自分を支えてくれた。
ジェラートはケーキよりも単一の素材そのものの味がダイレクトに表現される。
いかに素材を理解して、いかに手を加えすぎないか、そのシンプルな魅力の虜になってしまった。
しんどい中でもジェラート作りを本格的にやってみたいと、休みの日に掛け持ちで
ジェラート屋さんで働くほど。
次第にジェラート愛は深まる一方で、本場の味を見てみたいと25歳の時イタリアに修行へ向かうことに。

持ち帰り用も常備

イタリア修行時代

 

イタリアでは念願のジェラート屋さんに勤める。
イタリア人スタッフが度々、カフェをしに仕事を抜け出したりする、その悠長さにまずカルチャーショックを受ける。
もっとたくさん仕事がしたいのに。
戸惑いながらも、ジェラートの探求に精を出す毎日。
本当は3年いたかったけど、独立資金を確保しておくために、やむなく1年間だけにして、その期間はみっちり修行に当てた。
休みの日には、積極的に食べ歩きをして、時には危険を冒してまで食材を求めに行く。
治安が悪いと言われるシチリア島のピスタチオ農園を訪ねる際には、危険だからやめた方がいいと周りに言われるも、生きて帰ってこれたらいいという覚悟で挑んでいく。
危険を冒してまで、その地で約束したピスタチオは現在もお店で使用している。
他にも、女性だけに小さな危険は多々あったそう。
でもそれらを乗り越えてきた分、強くなれたのはいい経験になり自信へとつながった。

シチリア島のピスタチオ

奇遇な店名

 

rintocco(リントッコ)とはイタリア語で「鐘の音」という意味。
イタリア修業時代ではフィレンツェで勤めていた。街のシンボルでもあるサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂から聴こえてくる鐘の音が、2、3キロ離れた当時住んでいる所まで届いてきた。
遠くまで鐘の音を響かせるように、自分の想いをたくさんの人に届けたい。
迷いはなかった、なぜなら自分の名前も「凜」だから。

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂

帰国から開店まで

 

イタリアから日本へ帰ったら独立を考えていたけど、まだ何かが足りないと感じていた。
お店をする上で衛生管理の知識や、添加物が実際にどのように使われているかを見ておきたかったので、勉強のため大きな食品工場で働き始めることにした。
会社に勤めながらも独立の準備をするために、合間を見て物件を探していた。
福岡出身の山口さん、地元ではなく関西で勝負したいという気持ちがあったのは、
自分の表現したいものと、お客様の理解が一致する場所だと思ったから。
こだわりがとても強いので、初期投資である機材にも譲れないものがたくさんあった。
特に数種のジェラートを保管する冷凍ショーケースは、決して安いとは言えないイタリアから取り寄せたもの。
ジェラートを作る機械も量より質にこだわった。
どれだけ費用がかかろうとも、やっぱり自分の好きなことをしていたい。
様々な覚悟を決めて、いざ鐘を鳴らす準備が整った。

季節に合わせたイベントも様々

細部へのこだわり

 

添加物や自然素材へのこだわりが他のだれよりも強い。
添加物は、科学的なものを避けるため乳化安定剤を一切使っていない。
それ以外の乳化させる方法として、卵が一般的に使われるが、
卵を使うと費用が高くつくし、アレルギー対応にも困るので卵も使っていない。
本来なら乳化安定剤を使わず、卵も使わないとなると食感がバサバサしたり、
シャリシャリするので、なめらかな食感に大きく影響する。
ジェラートのなめらかさを表現するために必須である乳化を、自然素材で代用するために調理科学を駆使して独自で成分や配合で実現させている。
この技術を使ってジェラートを作っているお店は日本でも数えるほどしかいないという。
食材へのこだわりもまた強く、生産者のところに足を運び、実際に会って話を聞く。
選ぶ基準は、素材の質というよりも、作ってる人の素材を使いたいと思えるかどうかフィーリングや感覚で決めるのは、人柄や信頼性を大事にしているから。

様々なギフトセットも 
https://rintocco.base.shop/

表現の迷い

 

自分のこだわりを伝えるのがむずかしいと悩む。
伝えたいことと、お客様がお店に求めていることとのギャップ。
譲れない部分と、譲らなければいけない部分のバランスをどう取るのか。
常に考えながら試行錯誤している中で、あまり他人には任せられない性格なので、一人で抱えていると落ち込む時もたまにある。
精神的につらい時もあるけど、そんな時に励ましてくれるのは、大事にしてる世界観を理解してくれているお客様の存在。
それに、お店をがんばれるのはやっぱりジェラートを作ってる時が楽しいから。
夢中になれるから。
応援してくれるお客様がいるから。

フィレンツェの夜景

編集後記

 

ジェラートの価値をもっと上げたいという熱量は尋常じゃありません。
寝る間を惜しみ、寝る時間以外のほとんどをお店で過ごしている山口さん。
時間をかけて丁寧に仕込みをして、保存がきくと思われがちなジェラートを限りなく鮮度のいい状態で提供していることにも強いこだわりを感じます。
自分が好きなものをもっと見てほしい、こんな世界があるということをもっと知ってほしい。
その根源にあるのは、お客様に喜んでもらいたい気持ちから生まれるもので、きっと心の底から沸き起こるエネルギーに違いありません。
生産者を大切にして素材を素材以上に活かすというブレない表現の軸があって、それを叶えるための手段としてジェラートが一番適していたのではないかと感じました。

( 写真 = 山口 凜   文 = 大野 宗達 ) 


兵庫県宝塚市伊孑志3-15-49
0797-61-8305
営業時間 11:00〜19:00
定休日 不定休
*詳細はお店のサイトでご確認下さい

関連記事

  1. deux volontés

  2. ARUKUTORI

  3. 褒美玄米専門店 稲妻家

  4. シチニア食堂 

  5. pasticceria  gelateria BIANCA