料理屋 くおん

「余白を料理する」 


住宅街の一角にある和を感じさせない外観と佇まい。
暖簾をくぐると広がる空間もまたゆったりとした余裕がある。
料理の不思議は作り手の気持ちがきちんと届くということ。
全体を通して感じられる余白が何を意図しているのか。
その真意を探るようにお話を伺いました。

オーナーの平田雅人さん

見つけたおもしろさ 

 

料理を始めたのは大学生の時の飲食のアルバイトから。
いろんなジャンルの料理を経験した。
すでにその頃から自分で何かはしたいと思っていて、料理がおもしろかったから将来は飲食をしようと思っていた。
だけど大学に行かせてくれた親の面子もあって、一度は就職をすることに。
大きな組織を経験しておきたかったので、製薬会社の営業に就職をした。
始めたはいいが、自分が良さを分かっていない商品を売らないといけないストレスや、組織に合ってない性分だと気づき、精神的に仕事がしんどかった。
料理をしたいと思いながらも、周りの人のやさしい支えがあって5年間、製薬会社で勤めた。
その頃に応援してくれた上司や同僚は、今でもつながりがありお店にもたまに来てくれる。
人と人との関わるありがたさが心に沁みた。

素材のよさが最大限に引き出されたお料理

きっかけが確信に

 

会社勤めの頃、転勤で名古屋にいた時期があった。
一人暮らしだったので、駅前にあるおばあさんがやっている惣菜屋さんに毎日のように通っていた。
そのお店は美味しくてとても繁盛していた。
ふと中を覗いてみると、おばあさんが手書きで売上の帳簿をつけているのが見える。
一日の売上が10万円!?
月に換算すればかなり儲かっていることになる。
飲食はこんなに儲かるのか。
心が大きく動いたきっかけになった。
学生時代から抱いてた飲食をしたいという気持ちが現実味を帯びてくる。
やっぱり料理がしたい。
よくしてくれた人に心苦しさを感じながらも退社をして、大阪で料理の修行を始めることに。

余白のある空間

 

 

自分だけのアドバンテージ

 

初めての料理経験はジャンルを問わないお店だった。
高校を卒業して料理の世界に入ってきた人たちが、時代背景的にも古い風習の中、理屈を考えず仕事をしていることに違和感を覚えた。
なぜその行動に至るのか、理由が知りたかった。納得したかった。
誰も説明をしてくれないから、本などで必死に猛勉強した。
その頃から自分の信念が強かったのか、よく言い返していたし、生意気だったと振り返る。
それは料理以外の世界も経験をしていたことから生まれる違和感で、見方を変えればそのことが自分だけのアドバンテージとなった。
いろんな料理をこなしていく中で、自分がうまくできるのが和食だと思えたので、その道を極めるために次は日本料理のお店で働くことに。
次の日本料理のお店は、8年間在籍することになり、料理長までを経験させてもらえた。
料理長になるタイミングが新しいことに挑戦できるいい機会になった。
この経験があったことで、今の自分の料理のスタイルが確立していく。

御節のご注文はお早めに

お店を始めて

 

30代のうちにはお店を持ちたいと思っていて、特に場所にこだわりはなかった。
西宮や芦屋の雰囲気が好きで物件を探していたけど、豊中に決めたのは住宅街でしたかったのと、前に入っていた店舗が有名な和食屋さんだったことが決め手となった。
次に何の店が入るか注目されやすいから。
無事にオープンできたはいいが、はじめはやはり大変。
お客様が少ないうちは少々無理な期待にも応えないといけない。
お客様の対応が深夜にも及び、それから片付けをして3時ごろの帰宅。
お弁当の対応などもしていた時もあり早朝6時出勤の時も。
別で仕事をしている平田さんの奥様に、お店を手伝ってもらいながらも、はじめの一年はきつかった。
ランチは調子が良かったけど、ディナーのお客さんが定着するのに時間がかかった。

思うようにはいかない

 

人を使う悩みはオープン当初から今まで常に絶えない。
まだまだ飲食の労働環境は朝から晩までと体力的に厳しい。
ある朝出勤するとののしりあいの喧嘩をしているほどスタッフ同士の仲が悪かったり、料理未経験者で50歳前後の人が応募してすぐ辞めていくこともあると言う。
教えるのも大変だし辞められる時も大変。
味付けを任せられる若い人も少ない。
どうせならモチベーションや志のある人に任せたい。
総体的にそんな人が少なくなってきていると感じる。
将来的には一人でこだわってできる範囲で小さく営業していく方向も考えている。 

新しい販路

 

経営も軌道に乗ってきた頃、近所の空いてる店舗物件にご縁があり、テイクアウト専門店「六禾」を姉妹店としてオープンする。
くおんで仕込みができる範囲で、はじめは手探りだったが、コロナウィルスによって状況が一変した。
うまくテイクアウトの需要と重なり、可能性があると思えたし、テイクアウトでやっていける自信になった。
奥様にも全面的に手伝ってもらえるようになり、六禾の店頭に立つ時もしばしば。
また、「くおん」の新規客が減ってきていた中、「六禾」から知って来てくれる人が増えた。
若い人たちにも来てみたいと思える割烹和食にしたいと思っていたので、今は若い人も増えてきて理想的だと語る。

六禾のお弁当

店名の由来

 

店名の由来は仏教用語の「久遠」から。
永久に過去から未来につながると言う意味。
優しいイメージにするためひらがなに。
「く」と「おん」が離れているのは、信頼するデザイナーさんの提案で余白を大事にした。

編集後記

 

平田さんの奥様の存在が大きい。
もともと内装のお仕事をしていたのもあって、「くおん」の空間は奥様が手がけています。
金継ぎも得意としていて、実際に料理に使われている器なども個性的で、お店全体に統一感が生まれています。
料理も同じようにその美意識が宿っていて、店名の由来に通じる余白が隅々にまで行き届いてる印象を受けました。
そして「六禾」も、余白があったことで必然的に生まれたようにも思います。
そのことで「くおん」と「六禾」がバランスよく機能している。
本質だと感じた言葉に、
「こだわると儲からない、でもこだわりたい、こだわらないと楽しくない」、
「料理を接点として人と人のつながる感覚がおもしろい」がありました。
そのこだわりや想いにお客様がつきます。
自分が楽しい、おもしろいと思えるものに、まっすぐ向き合ってる姿に背筋が伸びる思いでした。

( 文 = 大野 宗達 )


大阪府豊中市北桜塚3-7-28
06-6850-4120
[火]18:00~22:00
[水~日]12:00~14:00/18:00~22:00
月曜定休日

料理屋 くおん https://ryouriyakuon.com/

六禾 https://rikka-takeout.com/

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