褒美玄米専門店 稲妻家

「与えられたご褒美」


山あいに車を走らせ、望む360度は自然につつまれた風景美。
目的がないと行かないような場所、わざわざ足を運ぶという行為の裏側にあるのは、計画をした瞬間から旅がはじまっているということ。
今いる場所から少し離れるだけでも、せわしない毎日から解放される。
旅と食、このふたつさえあれば、もう楽しい。
玄米推しの稲妻家さん、なぜ玄米なのか。
そこから見える生き方や姿勢についてお話を伺いました。
読んで食べれば、きっと玄米の新しい美味しさに気づくはずです。

店主の藤原拓也さん

何かをやりたい気持ち

兵庫県は姫路出身の藤原さん。
高校生の時、動物が好きだったので卒業したら動物関係の専門学校に行きたかった。
しかし両親は家から通える範囲で大学に行ってほしいと願っている。
託された期待の中で何ができるか、自分が何をしたいか。
手に職を、と思いたち、国家資格である管理栄養士を目指すために猛勉強した。
大学には合格、女性が占める割合の多いことが予想外だった。
その頃から漠然と描いていた未来は、自分で何かの”事業”がしたいということ。
それが何かはまだ鮮明ではなかった。

いろんな経験を通して

大学を卒業後、管理栄養士職として正社員で採用されたかと思いきや、配属先は管理栄養士の必要のない職場だった。
ゴルフ場の接客やサービスに携わる業務で、勤務地は大阪の富田林。
関西最大級であるPL花火大会、会社が模擬店を出店することになった時に、藤原さんは責任者として管理を任された。
企画をつくる楽しさを大学生の学園祭の時に憶えていたので、企画や裏方の仕事をすることが自分に向いていると、この時に思った。
他の場所にも、もっとおもしろいことがあるかもしれない。
頭の片隅には何か事業をしたいという気持ちはそのままに、それからは将来のためにいろんな職種の仕事を経験したいと思った。
百貨店でハンドバックを販売したり、パソコン関係のコールセンターをしたり、資格を活かした給食やメーカーにも就いたし、他にもいろんな仕事をした。
何かの専門知識がなくても、わからないということは逆にお客様の視点で世界を捉えられるということ。
お客様が求めていることに寄り添える。
専門性に染まらない視点をもてることは、逆に強みになるのではないのか。
このことがいろんな経験を通して得た、一番の大きな学びとなった。

飲食への道

まだ具体的な将来が描けない中、いろんな人と関わる中で知り合ったある人から、一緒に飲食事業をしないかと誘われる。
自分で事業をするためにも勉強になると思い、こころよく引き受けた。
料理はできなかったが、管理栄養士の性質上、料理人と一緒に仕事をすることは多かったので調理担当として任された。
誘ってくれたオーナー、もう一人の店長、サポート役として藤原さん。
この3人で飲食店を始めることになった。
出店場所は大阪の中津、梅田スカイビルの近く。
日本のお米の消費量を増やそうというコンセプトのもと、お店は”おにぎり屋”に決まった。
とはいえ飲食店経営の経験者がいないので、仕入れからオペレーションから、右も左もわからないままのスタートだった。
土地柄、人通りは多く、お客様は新しいものに反応する。
オープンの時は賑わいをみせたが、それ以降パッタリとお客様が来なくなった。
お店を始めて一年足らず、オーナーはおにぎり屋を閉店すると言った。

当時の稲妻家

究極の選択

オーナーの早すぎた決断は藤原さんにとっての転機となった。
お店をそのまま引き取ってくれないかと打診を受ける。
もう結果は見えたのではないか。
オープン以来、赤字が続いていることも知っていた。
飲食経験も少ないし、今まで見てきた業界の大変さも身に染みて感じている。
お店を立て直せるようなアイデアも持ち合わせていなかった。
何よりも自分に自信がなかった。

当時付き合っていた今の奥様に悩んでいることを相談したところ、「これはチャンスだからもったいない」と叱咤激励された。
初期費用はかからないとはいえ、来月からお店の家賃は払わないといけない。
貯金もほとんどない、結婚も考えていた。
いろんなマイナス要因しか見当たらなかったけれど、それでも胸の奥底にある事業をしたいという気持ちは消えていなかった。
奥様の声がその気持ちに火を灯す。
藤原さんは挑戦の道を選んだ。

玄米への覚悟

引き取ったお店は、おにぎり屋のままで営業はすべて一人でやることに。
同じ形態で続けても何も変わらない、周りには飲食店も多く競合ばかり。
他店と差別化をするためにも”玄米”に着目した。
いろんな玄米を試作してみたが、納得のいく美味しさには辿り着けない。
だからこそ自分の作る玄米が正解になれるのなら勝機があるのではと思った。
2ヶ月後には、白米のおにぎりではなく玄米のおにぎりに変更をする。

試行錯誤をかさねて

お客様の反応は散々だった。
中には、「玄米は鳥の食べる餌だ」と罵られることも。
今まで来てくれていた常連様が来なくなったけれど、それでもひたすら続けた。
いや、続けるという選択肢しかなかった。
少しでも長くお店を開けていないとお客様が来ないと思い、営業時間は朝の7時から夜の11時まで。
自分の時間を投資するという発想しかなかった。
ついには、おにぎりの作り過ぎで右手が動かなくなる。
健康のための玄米なのに、身体を壊してしまったら本末転倒ではないのか。
営業開始時間を遅らせて価格を少し上げることにした。
そうすることで、体調は回復し、朝のお客様は昼に来てくれるようになり、売上も前と変わらない。
実践と改善を繰り返し、健康に意識が高まるという時代の波にのれたこともあって、メディアにも取り上げられるようになり、徐々に自信がついていった。

ブランディングの大切さ

それでも料理人として経営者として、まだまだ自信はなかったので、時間があれば積極的に異業種交流会などに参加して、自らを内側から研鑽した。
そんな折、幅を広げていく中で出会ったデザイナーの時岡さんと意気投合をする。
お店に足りない部分を補ってもらうように、時岡さんにデザインやブランディングを手伝ってもらうことにした。(rashisaのwebサイト
独自性を出すために、「褒美玄米」と謳い、商標登録をしてロゴデザインの変更、他にもオリジナル商品をいくつか作った。
苦手なことや、わからないことは、できる人に素直にお願いをする。
世界観が整ったことで向かうべき道筋がより見えやすくなった。

WEB SHOPで購入も可能
https://www.rakuten.ne.jp/gold/inazumaya/

ある人の存在

藤原さんの人生を語る上で欠かせない人がいる。
その人は女性経営者の谷端慶さん。
80代で他界されるまで、藤原さんをはじめたくさんの若者から慕われ敬愛された母のような存在だった。
香川県観音寺市にある食事処「雅之郷」を経営していた慶さんは、広いお屋敷の中に能舞台や自然庭園を拵えるほど、雅で礼節を重んじる方だった。
落ち込んだ時は、幾度となく慶さんに相談した。
俳句をつくるように言われたり、料理を教えてもらうこともあったり。
とにかく返してくれる言葉は粋で、どこか風流で、同世代にはできないアドバイスをもらえることに信頼をよせていた。
「稲妻家」という屋号も慶さんからのプレゼント。
稲妻の語源は、豊作を示唆するもの、お客様を家族のように扱いなさいという意味を込めて”家”の字をあてた。
今でも迷った時には、慶さんなら何て言うだろうかと心の拠り所になっている。

お店には慶さんから頂いた調度品も

恵まれ巡る

ブランディングの効果もあって、次第に認知度も高まっていきお店は忙しくなっていった。
都会は人の流れも多く、土地柄インバウンドのお客様も多い。
お店を回すことに必死で、一人一人のお客様に対して目が行き届かなくなってきた。
玄米を軸としている願いとしては、もっとゆっくりと味わってほしいし、もっとゆっくり過ごしてほしい。
自分がいいと思ったものを、いい表現で伝えたい。
じっくり考える時間を確保するためにも、自然豊かな今の場所に移転することを決めた。
とはいえ、お店は物理的に近くの人にしか食べてもらえない。
もっと遠くの人にも玄米の美味しさを知ってほしいため、余白のできた時間で褒美玄米のオンライン販売や動画作りなどに注力していく方向だ。
今も自分にしかできない表現とはなにか、を試行錯誤し続けている。
計らずとも10代の頃から抱いていた事業をしたいという想いは、慶さんをはじめ、たくさんの人に恵まれながら、身を委ねるように巡ってくる偶然はやがて”玄米”に集約していった。

稲妻家にとっての舞台

編集後記

あとから好きになった玄米。
人生は何が起こるかわからない。
等しく同じ出来事があったとしても、そこから何を自分の学びとして抽出するかは人それぞれの受け取り方次第。
藤原さんのお話を通して感じたことは、はじめから軸がしっかりしていたこと。
その軸を基準として世界を捉えるし、そこから気づきを得て自分の人生を構築していく。
たとえ玄米ではなかったとしても、きっと今の場所にいるのだろうと勝手に想像する。
道の途中でだれと出会うかにもよるだろう。
文中に出てくる慶さんの影響はとても大きい。

終始、謙遜している様子だった藤原さん。
自分が正しいとは思っていない、自分の意見を押し付けることもしない。
わからないからこそ素直に他者の意見を受け入れる柔軟な姿勢が、今までの道を作ってきていたし、お店づくりにも反映されていると思った。

( 文 = 大野 宗達 )


兵庫県川西市黒川谷垣内141-1
営業時間 11:00~15:00(14:00L.O)※予約制
定休日 木曜日、日曜日

https://inazumaya.jp/

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