「郷土愛から生まれるもの」
夫婦で営むお店の在り方とは。
地方だからこそできること、食を通して生きることを考える場所。
二人の原点
政弘さんは幼い頃から周りと少し距離をとって物事を考える傾向があった。
知的好奇心が旺盛で、大学時代は哲学を学び人間の思考における時間性と空間性に関心を持っていた。
大半の人が評価されることを目的とした勉強をしていることに嫌気がさし、キャンパスライフを鬱々と過ごす。
何を食べているのか、どんな空気を吸っているのか、自分の感性が干からびていることに気づき始めていた。
そんな時にサークル活動で今の奥さんである愛さんと出会う。
愛さんは管理栄養士になる勉強をしていて、食育やイタリアのスローフードに関心を持っていた。
その考え方に政弘さんが強く惹かれ共感できたのは、食に頭だけではなく身体を使って感じる生の実感を感じたからで、それはまさに求めていた自身の哲学を食がちょうど補完してくれるような感覚だった。
何よりも愛さんが大切にしている、生まれ育った大阪北部の「能勢」という町の自然豊かな土地への愛着に興味関心があった。
何になりたいかより何をしたいか
二人の目標が「能勢という場所で食を通して社会とつながること」に定まり、大学卒業後はそれぞれの道で目標を達成するためのするべきことを学んでいくことに。
愛さんは食育をベースに保育園などで管理栄養士として勤め、政弘さんは未経験の料理を学ぶためにスパゲティ専門店RYURYUや池田「ばんまい」で修行を積む。
特にばんまいでは、自然食や発酵を学ぶことができ今の料理スタイルの原点となった。
やがて子供も生まれ家族ができていく過程で、次第に能勢へ拠点も移しながら、具体的にどのような形で何を伝えていけばいいのかを考えながら動いていくことに。
動きながら考える
山や田畑に囲まれた能勢で自分たちにできることは何か。
子育てができることも含めて、伝えたり継承できる環境を作るという意味性から立ち上がってくる意義は、やがてお店という形に落ち着いた。
食の加工場として構えようと考えていた時、愛さんの姉夫婦がパン屋さん(薪パン日々)を始めるタイミングが同じだったので、足並みをそろえて住居に隣接する駐車場に共同出資としてお店を作ることに。
限られたスペースで何ができるかを考え、能勢でとれた野菜やお米、こだわりの発酵調味料を使った身体にやさしいお弁当やデリ、スイーツのテイクアウト店「ノマディック」としての活動がスタートすることになった。
名は体を表す
オープン当初は、二人の役割分担が明確ではなかったのでよく衝突もした。
料理と製菓との役割を分けて考えるようになってからは、お互いの力が相乗効果でよりよくなっていく。
地方ならではの顔が見えるコミニュケーションは、地域のお祝い事や集まりでの利用が次第に定着していった。
料理を作って販売する以外にも、食の体験や価値観を子供たちに伝えていきたいと思い、子供を対象とした五感を使って感じれるフィールドワーク作りを行っていくことに。
食材の収穫から作って食べるまでを体で学ぶ、自然の中で食と子供をつなげることこそが、能勢でしかできないことだと思った。愛さんが能勢で生まれ育ち、今も沸き起こる強い郷土愛の背景が、食の力だと感じているから。
フィールドワークに関しては、収益性として成り立ちにくいけど、やる意義があるので続けていきたい。でもお店との両立も難しく、どの規模にしていきたいのか探りながらも迷っている状態。
お店の方も認知が広まるにつれて対応仕切れない部分も大きくなっていった。
テイクアウトでお客様が食べる場所を選べる自由度を提案したい気持ちとは裏腹に、自分たちが子供と関わる時間を減らし、悪いコンディションの中で作るのは何か違うと、思い描く気持ちが乖離してきたことで営業形態を事前予約制に変更した。
予約をしてでも食べたいと思ってもらえる人に、自分たちが納得できる範囲できっちり想いを乗せて届けることを大事にしている。
その形こそはオープン当初と変わっているかもしれないけど、思想の根っこの部分は能勢で何をしたいか。
変わりながら動いていく、動きながら考える。
店名のノマディックとは、能勢の中の野間という地名と、放浪するという意味のノマドを合わせて形容詞形にしたもの。まさに名が体を表している。
根っこでつながる思想
お店の移転が決まっていて、次は本を扱い、食事も楽しめる空間作りを目指す。
政弘さんが描く理想の先には大義としての教育がある。
知的な訓練ができる場所を作り、そこで抽象(考える)と具体(食べる、作る、育てる)が隣接する領域で思考を巡らせたいというもの。
自然の中で五感を刺激しながら考えていく、その答えのようなものが能勢と食にあるのではと探っている。
愛さんの口から出た理想は半農半X(エックス)という言葉。
半分は暮らしに費やし半分は自分の好きなことをして精神的に満たされるライフスタイルそのものを、自分が実践することで提案し、次の世代へ想いのバトンを渡していく。
二人の共通する思想は、食を窓口にして感じたい世界の感触を共有する場として能勢がある。
奥さんは食の力こそが郷土愛の源泉だと語り、政弘さんは哲学しているものとして普遍性を探りたいので、そのピュアな能勢への愛着にこそ考えるべき源泉があると感じている。
お店は形態こそ変化をしながらもブレない軸となっているのは、こだわりの一つでもある発酵で、そのプロセスや仕組みは自分たちの活動と切り離せないくらい密接に関わっている。
時間の経過で変わっていく命の変化に抗うことなく、風土の特性に沿うように身を委ねた先にあるもの。
郷土を継承する担い手として、自分たちができることはなにかを探求する道のりはこれからも続いていく。
編集後記
お二人がなぜ食で結ばれたのかにとても興味がありました。
辿ってみて見えてきたのは、社会に対する違和感、世界を解放したいという願い、
多様な選択があるという提案、作り手としての責任。
自然の空気の中で五感を刺激して思考する。
そのど真ん中に食があること、ありのままの生でいられることが
本来の人間のあるべき姿かもしれません。
すべての生命が大きな循環の一部であり、その中で使命を全うする。
とても考えさせられました。
深い思考の旅に連れ出してもらえた気分です。
( 写真 = 大谷 愛 文 = 大野 宗達 )
大阪府豊能郡能勢町野間稲地433-2
0727-43-0290
営業日 水、木、金、土曜日
時間 10-16時
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