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「縁でつながる円」


時代の大きな変化の中で、まっすぐ丁寧にドーナツを作り続ける。
オープンからの忙しさを駆け抜け、今なお走り続けているその心境とは。

店主の松本翔太さん

お店を始めたきっかけ

 

大学を卒業してから特に目標もなく安定を求めて、スーパーマーケットに就職する。
どの部門に配属になるかわからない状況で、最初の配属がベーカリー部門だったというのは運命かもしれない。
もちろんスーパーマーケットは量産が目的なので、こだわりを追及することが難しいけれど、製パンそのものの魅力にはまったことは確かだ。
当時アルバイトで働いてた今の奥さんとの出会いもあり、九年間みっちり製パンに携わる。
自然な流れなのか次第に、一人でお店を経営していきたいと思うようになっていった。
会社では教えてもらえなかった基本的な技術や理論についてもっと学びたいと思い、会社を辞めて神戸の製パンの専門学校で一年間、集中して勉強をした。

スキのない用意周到さ

 

卒業後は、個人で営むパン屋などでアルバイトをしながら、独立に向けて着々と準備をしていく。
屋号を先に作り、工房を構えて営業許可を取り、積極的に食のイベントに参加して認知度とファンを掴んでいくことに約2年間を費やした。
準備が整い晴れて自分のお店を持つことに。
以前から伊丹を活動の拠点としていて、ファンも付いていて、認知も広げていたのでオープンしてからも人気は止まらず、売り切れる毎日が今も続いている。

食パンにも深い愛情を

なぜドーナツなのか

 

東京に旅行に行った時にふらっと立ち寄ったドーナツ専門店ハリッツのドーナツがシンプルを極めていて、とても美味しくて感動したのがきっかけ。
この出会いがなければ今のドーナツはないと語る。
あとはパン職人を目指すとなると、専門的に勉強してなかったので同世代から遅れをとっていると感じたので、他の専門性に特化した方が競争が少ないため勝機があると考えたから。

店名の由来

 

シロクマは可愛く見えるけど、実は凶暴。
それを表現したくてロゴマークはあまりポップな可愛さをあえて演出していない。
その上、ドーナツを揚げた時に縁に白い輪っかができるのは、いい状態とされていて「白」という言葉にもこだわりたかった。
さらに屋号を作ったのが2016年で、オーナーの苗字と名前のローマ字表記2文字を混ぜ込んだ。
なかなか思いつかない組み合わせが妙なネーミングセンス。
口頭で説明しづらい店名だと語る。

これからについて

 

オープンしてからコンスタントにずっと忙しい日が続いている。仕込みは23時から。
深夜から朝方にかけてせっせと孤独に準備を進めていく。
もちろんそのことばかりではなく、ドーナツのような生地を扱うものは気温や湿度で状態は変わるので、どう変化をつけるかを常に試行錯誤しながら励んでいる。
生地の反省もしながら、それが自分の理想にはまった時はこの上ないよろこび。
なにより作ってる時は無心に楽しい。
とにかく今はやるべき作業に追われていて、勤務時間も長く定休日は一日仕込みに当てている現状。
プライベートでも、なかなか有意義な時間が取れてないので、まだ限界ではないけど、このまま体に負荷がかかりすぎるのはよくないと、将来に向けて働き方の構想を練っているところ。
奥様の出産を機に定休日を増やしたり、効率をよくするために設備投資をしたり。
当面は一人で作業ができる無理のない範囲でやっていきたい。
何よりも自分が納得していることが大事。
次の展開を考える上で、動画配信にも興味があるし、ドーナツだけではなく今も販売してる食パンに力を入れたいと思っている。
食パンは自分の想いをのせやすいし、サンドイッチなどにも展開していけるので可能性として大きい。

シンプルなファサード

大切にしてること

 

行列の絶えない日々が続くけれど、ある意味早く売り切れることで家族との時間を作れる。
体調を整え、ぶれない信念で、納得のいく味を追求していく。
ドーナツという商品を起点に、いかに付加価値を提案してお客様の生活を豊かにできるか。
バランスをとりながら自分にしかできない新しい可能性を探っていきたい。

編集後記

 

恐らく一日のうち一人で作業をしてる時間が大半を占めている。
見えない部分に費やしている時間は相当なもの。
ドーナツと真剣に向き合う時間は孤独でもある。
しかも作業の始まりは日が変わる前から。
開店を迎える時、お客さんに会えるよろこびはきっと大きいはず。
テイクアウト需要に、ソーシャルメディアの影響、ファミリー世帯の多い地域性、
いい運が重なってるように見えるかもしれない。
でも、ブランディングにかけた準備期間や、決して主張の強くないファサードから、どんなお店だろうと興味を持ってもらえるようなきっかけづくりや、行列による苦情を回避するために、近隣へ丁寧な挨拶をしておくことなど、様々な段取りこそが、確実に運を引き寄せているのではないでしょうか。

( 写真 = 松本 翔太   文 = 大野 宗達 )


兵庫県伊丹市車塚2-84
営業時間 10:00〜15:00 (売り切れ次第販売終了)
定休日  日、月、火曜日
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